阿里山とは
台湾の景勝地として名高い阿里山。「阿里山」というのは山の名前ではなく、嘉義県にある尖崙山、祝山、対高岳山、大塔山、塔山など18の高山から構成されたエリアのことで、最高峰は大塔山(標高2663m)となります。亜熱帯の台湾にありながら、年間平均気温10℃前後、最低気温8℃、最高気温15.7℃と涼しく爽やかな気候で、4月から9月は雨季、10月から3月までは乾季となり、特に雨季は雨量が多いため湿度は高く、濃霧が発生しやすくなっています。
阿里山の林業と森林鉄道
阿里山一体にはもともとツォウ族という先住民族が住んでいましたが、20世紀に日本が台湾を統治した際、「農業は台湾、工業は日本」とする政策により、第1次産業の農林業は台湾総督府によって積極的に発展が進められました。1895(明治28)年から日本政府は計画的な林業開発を進められ、1896年(明治29)年には阿里山でヒノキの森が発見され、山林調査が進められました。阿里山森林資源の開発と1906(明治39)年からは木材運搬のための阿里山森林鉄道の建設が進められました。このときに林学博士の河合鈰太郎によって林業の機械化や環境に考慮した計画的な伐採と植林という先進的な林業事業が導入されたことは、現代においても高く評価されています。
台湾の良質なヒノキ、杉、扁柏(へんはく)は、日本にとって大切な資源となり、それら伐採された樹木は鉄道で嘉義駅まで運ばれました。とくに台湾ヒノキは、日本の寺社建築でつかわれ、有名な場所では靖国神社の神門、東大寺大仏殿の垂木、明治神宮の初代鳥居(後に埼玉県大宮の氷川神社へ移築)の建築材に用いられました。
阿里山森林鉄道とは
阿里山森林鉄道の建設は、台湾総督府が木材運搬の利便性を向上すべく、まず1903(明治36)年、「阿里山開発の父」とのちに呼ばれるようになった林学博士の河合鈰太郎(雅号:琴山河合)へ阿里山の森林開発の計画と鉄道の経路選定を命じ、1906(明治39)年より鉄道建設工事が開始。1912(大正元)年12月、嘉義駅から二萬平駅までが開通(全長66.6km)。さらに1914(大正3)年には路線は阿里山の沼平にまで延伸し(全長71.9km)、同時に伐木作業が本格的に開始されていきました。
阿里山森林鉄道の開発初期は主に木材の運搬であり、山間部の住民の交通と生活物資の運搬を担う重要な役割を果たしていましたが、増加する登山旅行者のニーズに対応して、1962年以降、蒸気機関車からディーゼル機関車に取って代わり、目的が資材輸送から旅客輸送へ変わっていき、山岳観光列車として徐々に発展していきました。なお阿里山森林遊楽区を拡大するため、1997年に現在の阿里山駅が開業しました。しかしながら、2000年以降、二度の台風により現在も一部不通となっており、阿里山へ向かうには奮起湖駅、もしくは十字路駅にてバスに乗り換えなければなりません。
阿里山へのアクセスは?
阿里山へは、まず起点となる台湾中西部の都市である嘉義へ向かいます。
新幹線(高鉄)で台北駅からは約1時間45分、高雄(左営駅)からは約35分で「高鉄嘉義駅」へ到着します。高鉄嘉義駅から市の中心部に位置する台鉄(=日本のJR在来線に相当)の「嘉義駅」までバス(BRT)で約30分で到着します。新幹線のチケットがあれば無料でバスにご乗車することができます。
嘉義から阿里山までは以下の通りです。
①阿里山森林鉄道
嘉義駅から十字路駅まで1日1本(休日は3本)運行されていますが、旅程が完全に決まっている場合は、切符をあらかじめ日本からインターネットで購入していくことをお勧めします。
嘉義駅は9:00出発(休日はさらに前後30分)、奮起湖駅に11:30到着、終点十字路駅には12:00に到着します。それぞれの駅から阿里山バスターミナル(阿里山ビジターセンター付近)まではバスでの移動となりますが、奮起湖からは2~3本しかなく、しかも時間が遅れがちであることから、奮起湖を観光しない場合は、十字路駅(1日14本運行)でバスへの乗換えがおすすめです。所要時間は、奮起湖駅から阿里山までは約1時間、十字路駅から阿里山までは約30分となります。
※阿里山森林鉄道やバスの運航スケジュールは、公式ホームページをご確認ください。
②バス
嘉義駅からは、阿里山までダイレクトで1日10本、高鉄嘉義駅からは1日4本運行されており、所要時間はともに約2時間半(奮起湖経由の場合は約3時間)かかります。道中くねくね道を走りますので、不安な方は酔い止めを持参しましょう。
★おすすめの方法は、<往路(嘉義→阿里山)は阿里山森林鉄道+バスでの移動>、<復路(阿里山→嘉義)はバスのみの移動>と往復それぞれ異なる移動方法にすることで、移動中の景色を2倍楽しめます♪
※日帰り観光も不可能ではありませんが、「祝山での日の出鑑賞」が観光の目玉の一つでもあるので、最低でも1泊されることをお勧めします。阿里山内に大小さまざまな宿泊施設があります。
阿里山森林鉄道乗車と必見ポイント(嘉義→奮起湖)
嘉義駅からの乗車方法とポイント
嘉義駅(標高30m)から出発の場合、まずは改札を抜けて、そのまま右に進むと阿里山森林鉄道の専用ホームが見えてきます。少し早めに行くと、機関車が先頭で客車を牽引していてホームに入線する様子をみることができます。ということは、阿里山へ向かう際には、機関車が最後尾から客車を押すという推進運転ということになります。そして客車の側面を見ると、日本の大井川鐵道および黒部峡谷鉄道との姉妹鉄道のマークが貼られています。また線路は762㎜と幅が狭いので(ちなみに日本のJR在来線は1067㎜、新幹線は1435㎜)、車内は幾分狭く感じますが、2列-1列のクロスシートなので、さほど窮屈感は感じません。なおこのような山岳鉄道の場合、右と左どちらが景色がいいか?という疑問がわいてきますが、どちらもほとんど変わりません。
嘉義駅を出発し、奮起湖駅(標高1403m)までは2時間半。車窓からの風景は、出発時はヤシ、ビンロウ、バナナなどの亜熱帯植物、標高が上がってくると、温帯の植物に変わっていくのがわかります。途中、樟脳寮駅(標高543m)から獨立山駅(標高743m)までループ路線となっていますが、正直なところ、ループを通っているという実感はわきません。
奮起湖駅
「奮起湖」といっても湖があるわけではありません。このあたりは周りが山に囲まれた盆地で、雲や霧に覆われた様子が湖に見えることからそのように名づけられました。こちらは「南台湾の九份」と呼ばれる老街がノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。
列車を下りてから、駅構内にある奮起湖車庫をまず見学しましょう。かつては蒸気機関車で運行してたとき、この場所で水や石炭を補充していました。現在は北門駅近くの阿里山森林鉄路車庫園区と同様に退役した蒸気機関車の展示を見ることができます。またここまでの乗車時には実感できなかった樟脳寮駅~獨立山駅間のループのジオラマが展示してありますが、なんと三重のスパイラルループ!凄いところを通ってきたんだということがわかるので必見です。
奮起湖から本数の少ない阿里山までのバス時刻に注意しながら奮起湖での見学を終えた後は、バスで阿里山バスターミナルに向かいましょう。阿里山バスターミナル着後、700mほど奥に進むとビジターセンターがありますが、途中のゲートで阿里山森林遊楽区への入場手続きを行う必要があります。入場後、森林遊楽区内の移動は、徒歩、遊園バス、森林鉄道のいずれかになりますが、ビジターセンターのすぐそばに遊園バスのバス停、またビジターセンターから少し階段を上がったところ(徒歩4~5分)に阿里山駅(標高2216m)があります。
阿里山国家森林遊楽区の見どころ3選
阿里山森林鉄道支線の乗車体験
阿里山林業史の生き証人でもある森林鉄道は、森林遊楽区内の移動手段の1つでもあり、阿里山森林鉄道の支線である阿里山駅~神木駅間(神木線)、阿里山駅~沼平駅間(沼平線)を結んでいますが、両路線とも所要時間7分、30分おきの運航となります。また日の出に合わせた早朝のみ、阿里山駅~沼平駅~祝山駅間も運行しています。
阿里山から見る絶景!日の出、雲海、夕焼け
阿里山を訪れたのなら絶対に見ておきたい日の出。日の出時間に合わせて鑑賞スポットとなる阿里山森林鉄道の支線にある祝山駅行きの切符は、前日に阿里山駅(もしくは一部ホテル)にて購入することができます。日の出に合わせた出発時間となるので、時期によって出発時間が変わるので、前日から出発時間の確認と切符を購入していくことをお勧めします。そして日の出鑑賞当日の朝(未明)、出発時間間際に阿里山駅に行くと、長蛇の列になっていて驚くかもしれませんが、切符の販売枚数に合わせて列車も運行しているので、必ず乗車することはできます(ただし日本のラッシュアワー並みの乗車率のため、遅くに行くと高い確率で立席になります)。阿里山駅から祝山駅までの乗車時間は、約30分。
祝山駅(標高2451m)を降りると、日の出時間と帰りの最終列車の案内板(上記写真)があります。駅のすぐそばにも展望台があるのですが、階段を上がり徒歩10分ほどの場所にある「小笠原山展望台(標高2488m)」のほうが断然景色が素晴らしいのでおすすめです!展望台に到着するころには空も明るくなり始め、気象条件があえば左側に雲海が見えます。また正面の一番高い山が、日本統治時代は新高山(にいたかやま)と呼ばれた台湾最高峰の玉山(標高3952m)です。向かいに見える玉山から朝日が昇る光景は、神々しさを感じ、この世のものとは思えない感覚へと導くご来光や、眼下に広がる雲海、植物の群生は必見!
マイナスイオンたっぷり!檜からパワーを得る散策
阿里山は雨量が多く年中霧に包まれているため、多くの檜(ヒノキ)が植生しています。なかでも樹齢千年以上の檜は40株弱もあり、特に樹齢約2000年の「千歳檜」、1953年と1956年の2回の落雷に見舞われ、1997年の豪雨で樹木の一部が線路に倒れたため、翌年には残りの部分も惜しまれながら切り倒されたという樹齢約3000年の「神木」が有名です。そのほか、現在の神木、規則正しく植林された杉の人工林、象鼻木、三大木(巨木で面白い形をしている)、そして季節に応じて咲く花々など見どころがたっぷりあり、マイナスイオンを浴びながらの散策はおすすめです。
嘉義駅近辺のおすすめ観光3選
台湾から甲子園へ!呉明捷投手の像(嘉義駅)
阿里山観光の玄関口でもある嘉義といえば、日本統治時代の1931年に嘉義農林学校野球部の甲子園大会出場(準優勝)を描いた映画『KANO 1931海の向こうの甲子園』(台湾では2014年、日本では2015年に公開)で一躍有名になりました。嘉義駅から中山路を900mほど進み、文化路との交差部に中央噴水地があり、その中心に甲子園出場時の嘉義農林のエースで、映画の中では「アキラ」というあだ名で呼ばれていた呉明捷(ごめいしょう)投手の像が立っています。
映画『KANO』の世界が見られる北門駅と檜意森活村
嘉義駅から2km弱進んだところに北門駅があります。実はこの駅から阿里山森林鉄道に乗車することも可能。もともと森林鉄道の起点は北門駅で、阿里山から運ばれてきた檜の木材はここで集められていたため、林業関係に携わる人たちの日本式木造建築の宿舎28棟が駅の近くに建てられました。その後、それらの建物を保存することも兼ねて、2014年に観光施設「檜意森活村」がオープン。その敷地内には、映画『KANO』にて嘉義農林の野球部監督近藤兵太郎氏の家として使われた「KANO故事館」もあり、内部には映画で使われたユニホーム、グローブ、ボール、スコアボードなどが展示されています。
鉄道ファンは必見!阿里山森林鉄路車庫園区(北門駅)
北門駅から嘉義駅方向に線路沿いを5分ほど歩いたところにかつての「北門修理工場」であった阿里山森林鉄路車庫園区があり、かつて森林鉄道で使われ現在は退役した蒸気機関車、ディーゼル機関車、客車車両や転車台などが展示されているため、鉄道ファン垂涎の地と言っても過言ではありません。
阿里山観光でのおすすめグルメとお土産
途中下車の楽しみ♪奮起湖名物「奮起湖便當」
奮起湖の名物といえば、ズバリ駅弁!その名も「奮起湖便當」。なかでも老街にあるホテル奮起湖大飯店がおすすめ。もともと奮起湖に住んでいた林さんは大正時代に日本から来た料理人に、柔らかくて、甘しょっぱい日本式焼肉の作り方を学びました。そしてある女性が林さんにそのレシピを教えてもらい、その後、味を調整しながら、ニンニクタレや醤油ペーストで味付けした独特な味に改良。その女性こそが奮起湖大飯店の林金坤会長の母親で、1940年代に奮起湖駅そばにあった食堂で焼肉弁当を販売。そして2017年から当時の味を再現した「家傳軟焼肉便當」の販売を開始しました。さてれっきとしたお弁当ではありますが、ホテル内レストランで食べることができます、昔懐かしいアルマイトの弁当箱の中に、ご飯の上に鶏肉、豚肉、ゆで卵などが入っており、セルフサービスですが温かいスープもつきます。肝心のお味は?日本がルーツということもあり、日本人の口にも合うこと間違いなし!
阿里山烏龍茶
阿里山といえば、高山烏龍茶を思い浮かべる方も多いかと思います。実際その通りではありますが、茶畑があるのは森林遊楽区内ではなく、阿里山からバスで嘉義へ戻る途中にある石棹地区(標高1300~1600m)で、車窓から一面に広がる茶畑をご覧いただけます。またお茶農家が営む民宿も点在していますので、そこで1泊されてもいいかと思います。もちろん茶畑に行かずとも、台湾全土で阿里山烏龍茶をご購入いただくことは可能で、森林遊楽区内であれば、ビジターセンターと阿里山駅の間に食堂やお店が軒を連ねているエリアがあり、その中に何件かお茶屋もありますが、気軽に試飲もさせてくれますので、いろいろと飲み比べた後にご自身の気に入った茶葉をご購入いただくとよろしいでしょう。価格はピンからキリまでで、お店によってはティーバックをバラで買うこともできます。またミネラルウォーターにそのまま茶葉を入れたペットボトルも商店でよく見かけますが、飲み終えてからもあと1~2回であれば、自身でミネラルウォーターを継ぎ足しても味は落ちません。