ジャイナ教とは?
ジャイナ教は、紀元前5世紀に古代インドで生まれた宗教の一つであり、不殺生(アヒンサー)や苦行や禁欲などの自己克服を重要とする宗教で、主にインドにて広まっています。ジャイナ教徒の人口はインド全土の人口約14億人に対し、約0.4%の560万人ほどですが、インドではヒンドゥー教やイスラム教などと同様に主要な宗教の一つとして位置付けられています。インドでは有名なジャイナ教の不殺生の信仰と食事の特徴、開祖についても解説していきます。
ジャイナ教について
ジャイナとは煩悩にうち勝った勝利者「ジナ」の教え、という意味を持ちます。ジャイナ教の特徴の一つである「不殺生」の教えはインド独立の父、マハトマ・ガンジーにも影響を与え、その影響から彼が「非暴力」を掲げたとも言われています。
ジャイナ教の開祖と歴史
ジャイナ教の開祖はマハーヴィーラ(出家前:ヴァルダマーナ)です。紀元前6世紀頃、マハーヴィーラは東インド・ベンガル地方のクシャトリヤ(武士・貴族階級)の生まれ、仏教のブッダと同様に王子を経験し、娘もいました。30歳の頃に出家し、その後、約12年の苦行の末、悟りを開きます。以後30年間教えを説き広め、72歳で現在のパトナ市近郊で生涯を終えました。
ジャイナ教の信仰
ジャイナ教の信仰は仏教のように、悟りに到達し、輪廻転生から解脱することを説いています。ジャイナ教の教えには「三宝」と呼ばれる解脱に導くとされる3つの行いと「大禁戒」と呼ばれるやってはいけない5つの行為があります。
解脱に導くとされる3つの行い「三宝」
1.正しい信仰、2.正しい知識、3.正しい振る舞い
やってはいけない5つの行為「大禁戒」
1.不殺生(生物を傷つけない)、2.不妄語(噓をつかない)、3.不偸盗(物を盗まない)、4.不邪淫(性的行為をしない)、5.不所有(何も所有しない)
信者は可能な限り教えを実行し、出家したものはより厳格に、教えに忠実に修行をします。
ジャイナ教の修行僧は虫が口に入って殺してしまうのを防ぐためマスクをしています。さらに、机の前に描かれているほうきは座る時に虫を潰してしまわないように掃く為に使われます。
ジャイナ教の食事と不殺生(アヒンサー)
あらゆる命を大切にする不殺生の教えから、ジャイナ教の食事は肉、魚介、卵等を避け、野菜中心の食事になります。さらに、野菜でも植物全体の命に関わる根の部分は避け、主に葉や茎、豆などが食料となります。また、調理の際は火に飛び込む虫の命を守るため、夕食も暗くなる前に作ることもあります。そして、出家者では不殺生を徹底し、断食を行って死に至ることは教えを守る上では最も理想的であるという考え方もあります。
ジャイナ教と仏教
ジャイナ教と仏教は前6世紀〜5世紀頃のほぼ同時期に現れています。
当時はヒンドゥー教の元となった多神教のバラモン教が社会に定着しており、仏教やジャイナ教の業(カルマ)や輪廻転生などの考え方はバラモン教のウパニシャッド哲学に影響を受けています。
仏教とジャイナ教の共通点として挙げられるのは、バラモン教のカースト制度を否定していることと聖典の形式です。バラモン教の最高位カーストであるバラモンの神への祭祀が形式的になっていたことから内面的な真理を悟ることを目的とした仏教やジャイナ教が誕生したと言われています。後にバラモン教にも改革が起こり、現在のヒンドゥー教へと形を変えていきます。
聖典の形式も似ています。仏教とジャイナ教では弟子が教わり、聞いたものを聖典としてまとめています。ジャイナ教は「アーガマ」と呼ばれる聖典があります。
仏教とジャイナ教で異なる点は、ジャイナ教は苦行を肯定していることです。仏教では苦行をやめた後にブッダが悟りを得るのに対し、ジャイナ教では、苦行の末に悟りを得たことから、苦行が肯定されています。
ジャイナ教の聖地や寺院6選
聖地シャトルンジャヤ寺院(インド・グジャラート州)
シャトルンジャヤ寺院はジャイナ教の最大の聖地であり、ジャイナ教の24人の聖者(ティールタンカラ)の一人であるシャントルジャヤに捧げられる寺院です。高さ591mの山頂までは3950段の階段を登ってたどり着くことができます。山上にひしめき合う900以上の寺院は圧巻です。
聖地アーブー山・デルワーラ寺院群(インド・ラジャスターン州)
アブー山はジャイナ教の聖地であり、ヒンドゥー教の聖地でもある聖なる山。アブー山に建つデルワーラ寺院群は11世紀から13世紀にかけて白い大理石を彫って建てられた寺院群であり、細微な彫刻があらゆるところに施されています。1986年にユネスコの世界遺産に登録されました。
ハーティシン・ジャイナ教寺院(インド・グジャラート州)
1848年にアフマダバードの裕福な貿易商であるハーティシン家によって建立された寺院。建立にかかった総費用は現在の日本円で1億円相当とも言われています。当時のグジャラート州は深刻な飢餓状態でしたが、2年間の建立の間、多くの職人に雇用を生み出し、人々の助けになりました。聖域に近づくにつれて重厚になると言われる彫刻が特徴です。
ジャイサルメール・ジャイナ教寺院群(インド・ラジャスターン州)
ジャイサルメール城塞の中にある12~16世紀に黄砂岩で建てられた 7 つのジャイナ教寺院群。7つ全ての寺院には約 6,000 体の彫像があります。この像は1947年にパキスタンが建国された際、絹貿易のルートが閉鎖され、職を求めて移動せざるを得なかったジャイナ教徒によって寄付されたものであると考えられています。
エローラの石窟寺院(インド・マハーラーシュトラ州)
1983年に世界遺産に登録されたインド発祥の3つの宗教の寺院群が同じ場所に集まるエローラ石窟群。年代が古い順に仏教、ヒンドゥー教、ジャイナ教の寺院が立ち並び、当時も他宗教にも寛容な精神があったと考えられています。エローラのジャイナ教寺院は後世のジャイナ教寺院の原形になったと言われています。
バグワン・マハビールスワミ・ジェイン寺院/神戸ジャイナ教寺院(日本・神戸市)
ジャイナ教寺院はなんと日本にもあります。戦前から神戸に住んでいた貿易に関わるジャイナ教によって1985年にインドから取り寄せた大理石で建てられました。ジャイナ教徒は商業に関わる人が多く、神戸に住むインド人約1000人のうち約100人はジャイナ教徒と言われており、インド全体のジャイナ教の割合から比べると多くのジャイナ教の人が日本に住んでいると言えます。