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貴州省の山間に生きる少数民族 長角ミャオ族

2022 3/16
目次

ミャオ族とは

貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州の西江千戸苗寨(撮影:姚武強)

中華人民共和国は56の民族で構成されており、そのうちの55が少数民族です。ミャオ族は、チワン族、満州族、回族に次ぎ四番目に人口が多い少数民族で、中国南西地区の貴州省を中心に湖南省、雲南省、国境を超えたタイ、ラオス、ミャンマー、ベトナムの山岳地帯に居住しています。

ミャオ族6支系(撮影:ユーラシア旅行社)

ちなみに「ミャオ(苗)」というのは主に中国国内で用いられている漢民族による他称で、自称は「モン」です。ベトナムやタイ、ラオス等東南アジアの国々に住むミャオ族は自称を用いて「モン族」と呼ばれています。ミャオ族は元々、揚子江中流域の湖南・湖北・江西に住んでいましたが、漢民族に追われ次第に居住域が南下したと言われています。

多様性に富んだミャオの名称

一言にミャオ族といっても、支系によって自称や他称、方言、服装等が大きく異なります。ミャオ族にはおよそ60もの支系があると言われています。ミャオ族は、古くは女性が身にまとう衣装の色彩を基準に大きく5つのグループに分けられていましたが(黒ミャオ、白ミャオ、青ミャオ、紅ミャオ、花ミャオ)、1950年代の言語調査以降は、方言を基準に大きく3つのグループに分けられるようになりました(「湘西(しょうせい)方言ミャオ族」、「黔東(けんとん)方言ミャオ族」、「川黔滇(せんてんけん)方言ミャオ族」)。

黒ミャオ族(撮影:姚武強)
白ミャオ族(撮影:ユーラシア旅行社)
青ミャオ族(撮影:ユーラシア旅行社)
花ミャオ族(撮影:姚武強)

そしてそこから更に、女性の服のデザインや髪型、装飾の特徴から、長角ミャオ、尖尖ミャオ、長裙ミャオ、短裙ミャオ・・・など無数の名称に分かれます。ミャオ族の名称は女性の服飾の他に、住む地域や地名、地形、職業や漢化の度合いに因んだものもあり、実に多様です。
(居住地域由来:平伐ミャオ・清水ミャオ・清江ミャオ等 地形由来:平地ミャオ・高坡ミャオ等 漢化度合い:熟ミャオ等 職業:打鉄ミャオ等)

清水ミャオ族(撮影:ユーラシア旅行社)
高坡ミャオ族(撮影:ユーラシア旅行社)
打鉄ミャオ族(撮影:ユーラシア旅行社)

バラエティ豊かなミャオの民族衣装と祭典

ミャオ族の最たる特徴といえば、華やかで個性豊かな女性の衣装で、その種類は130種を超えると言われています。

長裙ミャオ族(撮影:ユーラシア旅行社)
短裙ミャオ族(撮影:姚武強)
尖尖ミャオ族(撮影:姚武強)

普段は比較的地味な日常着姿ですが、祭事には煌びやかな盛装姿の人々が村の広場を彩ります。居住地域ごとに様々な祭事があり、中でも盛況なのが「姉妹節」(貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州台江県で開催されるミャオ族男女の恋愛の祭日)や「芦笙節」(貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州従江県で開催される芦笙の演奏で先祖を祀り、豊作を祝う祭典)で、毎年多くの観光客がミャオ族の美しい姿を一眼見ようと、国内外から訪れます。

姉妹節(撮影:姚武強)
蘆笙節(撮影:ユーラシア旅行社)

貴州省の少数民族の村への行き方、アクセス

貴州省へは省都、貴陽の貴陽龍洞堡国際空港から入ります。日本から貴陽への直行便は関西空港、中部国際空港からそれぞれ週2便運行しています。成田、羽田からは中国東方航空や中国南方航空等を利用し、中国内都市を経由して行くのが一般的です。(※)
北京、上海、杭州、武漢など中国各地の主要都市からの高速鉄道も貴陽に乗り入れているので、陸路でのアクセスも可能です。かつては貴陽から先は長時間かけて路線バスや車で移動するのが一般的でした。しかし2000年代に入り、目覚ましい勢いで発達した鉄道網が貴陽から貴州省内少数民族自治州の各都市を繋ぎ、以前とは比べ物にならない手軽さで、六盤水、安順、凱里、都匀など、少数民族の村へのアクセスの起点となる町まで移動できるようになりました。鉄道駅から先はバスや車での移動となります。ミャオ族最大の村である西江千戸苗寨や、トン族最大の村肇興侗寨などは観光地化が進んでおり、駅と村を結ぶバスも1日に数便運行しているのでアクセスは比較的容易ですが、山間の小さな村々へ向かうバスは本数も少なく、効率良く巡るには車の手配などが必要です。また、村付近は未舗装の道も多いため、悪天候により通行止めになることもあります。
※新型コロナ感染症による渡航制限前までの情報です。現在の運航スケジュールは流動的な為、今後は確認が必要です。

風貌の不思議さはミャオ族随一!?巨大な髷を結う長角ミャオ族

長角ミャオ族(撮影:姚武強)

長角ミャオ族とは

六枝近郊・長角ミャオ族の村(撮影:姚武強)

個性あふれる数多のミャオ族の中でも、他に類を見ない独特な頭飾りで知られているのが長角ミャオ族です。方言による分類では川黔滇(せんてんけん)方言に属する、阿弓支系のミャオ族です。貴州省西武の六枝、織金、納雍、普定郊外の山間に分布しています。かつては外部と接触が少なく、同じ村のもの同士でしか結婚できないなどの決まりもあったそうですが、現代社会に溶け込むにつれそのような制約もなくなりました。
遥か昔、他民族に追われた長角ミャオ族は山に逃れ、森林は彼らを外敵から守りました。故に長角ミャオ族は山の植物を強く崇拝し、どの村にも礼拝時女人禁制の「神の森」があります。また、動物崇拝もあり、特に牛はトーテムとされており祭祀の際にも重視されます。長角ミャオ族の女性が頭につける弓状の櫛は牛の角を模したものだと言われています。

長角ミャオ族の髪型

長角を挿した女性(撮影:姚武強)

ミャオ族の女性の髪型の一般的なイメージといえば、大きく華やかな髪飾りです。特に貴州省東部エリアのミャオ族の、巨大な冠のような銀の髪飾り装飾は印象的です。長角ミャオ族の女性の髪型はそれらの銀飾りとは趣が大きく異なり、非常に個性的です。長角ミャオ族の女性は、普段の生活では結った髪に「長角」と呼ばれる水牛の角を象った長さが50センチ以上ある大きな木製の櫛を挿しています。長角ミャオという呼び名はこの櫛からきています。

祭の盛装時には、この大きな長角(櫛)に毛糸を「∞」の形に巡るように巻き付け、巨大な髷を作ります。この時に用いる毛糸の長さはおよそ2.5メートルあり、結い上がった髷は肩幅よりも広く左右に垂れ、重さは3〜5キロにもなります。そしてこの毛糸はただの毛糸ではありません。各家庭の先祖代々の女性の髪の毛が編み込まれた毛糸なのです。長角ミャオ族の女性は髪の毛をとても重要視しており、髪を梳く際に抜けた髪の毛も捨てずに取っておきます。未婚の女性は髷を結った後うなじのあたりに花飾りをつけます。

髪の毛に長角をくくりつけます(撮影:ユーラシア旅行社)
頭に巻く2.5メートルの長さの毛糸(撮影:ユーラシア旅行社)
毛糸を∞の形に長角に巻きつけていきます(撮影:ユーラシア旅行社)
晒しで固定します(撮影:ユーラシア旅行社)
未婚の女性は仕上げに頸に花飾りをつけます(撮影:ユーラシア旅行社)
巨大な髷が完成(撮影:姚武強)

髷を結って盛装した長角ミャオ族の女性は腰に両手を当てたポーズを取っていることが多いですが、これは重た過ぎる髷を支えるために腰に手を当ててバランスを取っているからだそうです。

腰に手をあててバランスをとる子供たち(撮影:ユーラシア旅行社)

長角ミャオ族の衣装

クロスステッチで様々な紋様を描く(撮影:ユーラシア旅行社)

ミャオ族の女性の民族衣装、特に若い女性の衣装は大変可愛らしく華やかです。5つの正方形の布地を繋ぎ合わせて作る上着の前見頃と背中(後見頃)、袖には朱色やピンク、白色など明るい鮮やかな色を基調としたクロスステッチの刺繍がふんだんに施されています。下には色鮮やかな横縞模様の刺繍が施されたフレアスカートを履き、腹部周りには黒く丸い形の前掛けをつけます。長角ミャオ族の男性の衣装は黒い詰襟風で前見頃の合わせに白糸で縄状の刺繍が施されています。祭りの時には男性も女性の衣装と同じような華やかな刺繍が施された前掛けをつけたり、スカートのようなものを腰に巻いたりします。

長角ミャオ族女性の盛装(撮影:姚武強)
長角ミャオ族男性の盛装(撮影:姚武強)

長角ミャオ族に会いに行くならいつ?民族衣装姿は見られる?

長角ミャオ族の村は都市部から離れた山間にあり、訪問するには鉄道駅から車で何時間も走る必要があります。幹線道路から先の村までの道路は十分に整備されていないところも多いです。中国南部にある貴州省ですが、冬には雪が降ることもあります。降雪や大雨の後は道路状況が悪化して危険なため、村までの道が通行止めになることがあるので注意が必要です。1月下旬から2月ごろは村に向かう途中に広がる農地に菜の花が咲き、あたり一面黄色い絨毯のような車窓風景を楽しめます。

菜の花(撮影:姚武強)

民俗文化を堪能できる「歓迎式」

歓迎式の様子(撮影:ユーラシア旅行社)

ミャオ族の中でも伝統文化が暮らしの中に強く残っていると言われるミャオ族ですが、近年は普段から民族衣装を身につけている人は少なくなりました。ふらっと突然訪れても、巨大な髷姿の盛装どころか普段着の民族衣装も見られません(今時の洋服を着ています)。旅行会社が主催するツアーで訪れる場合は、事前にお金を払って「歓迎式」を手配しているので、盛装姿や髪結の様子、歌や踊りに笙の演奏までしっかり見ることができます。歓迎式の手配料金は年々値上がりしており、個人で手配する場合の負担は高額です。

長角ミャオ族の春の祭典「跳花坡」

跳花坡(撮影:姚武強)

わざわざ歓迎式を開いてもらわずに長角ミャオ族の民族衣装姿を見たい!という方はお祭りのタイミングに合わせての訪問はいかがでしょうか?ミャオ族には伝統的な祭事が数多くありますが、長角ミャオ族の祭典といえば「跳花坡(節)」です。先祖を偲ぶ祭祀であるとともに、未婚の若者にとっては異性と知り合って恋人同士となる恋愛の祭典で、「跳花をしなければ、男女も所帯を持ちがたい」「ミャオ族の人は跳花をしなければ、稲は花粉が散らない」と言われるくらい長角ミャオ族の一年で最も盛大な祝日です。六盤水市六枝特区の隴嘎寨(りゅうがむら)近郊の跳花場(三面を坂に囲まれた天然のギリシャ劇場のような直径2百メートルの広場)で、旧暦の1月10日に開催されます。祭りが始まる午後の時間に合わせて、梭嘎郷(そうがごう)の12の長角ミャオの村々から盛装した人々が山道を歩いて続々と集まってきます。広場を埋める巨大な髷を結った若い女性等と、精悍な若者達が笙を奏で楽しげに踊る姿に心奪われることでしょう。

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