きよしこの夜とは
「きよしこの夜(Silent night)」は最も有名なクリスマス・キャロルといっても過言ではありません。日本でもクリスマスの時期になると、あちらこちらでBGMとして耳にしたり、自然と口ずさんでしまうほど親しまれているこの曲は、1818年にオーストリアの小さな村オーベルンドルフで誕生しました。そこから世界中へと広まっていき、今や約300もの言語や方言に翻訳されています。
きよしこの夜誕生ストーリー
クリスマス・イブの前日、オーベルンドルフの聖ニコラス教会にあったオルガンが壊れてしまったため、ヨゼフ・モール司祭は教会のオルガン奏者フランツ・クサーバー・グルーバーに、司祭が書いた詩にギターで演奏できる曲を付けてほしいと依頼しました。伴奏のないクリスマスミサを避けたいという司祭の想いに応えるように、グルーバーはギター伴奏によるクリスマス・キャロルを、わずか1日ほどで作曲しました。1818年12月24日の夜、グルーバーのギター演奏のもと二部合唱で村の信徒たちに向けて「きよしこの夜」が歌われました。
当時、ナポレオン戦争による損害とフランスの支配下になった状況下で、村人たちは厳しい生活を送っていました。きよしこの夜は、戦争と困窮の時代に生きる人々に希望を与えられるようにという願いを込めて作られたのです。モール司祭による誰もが理解できるよう綴った詩、グルーバー氏による誰もが聴いたそばから歌えるよう作曲したメロディは、シンプルながらも多くの人々の心を動かしました。
その後、オルガン職人のカール・マウラッハー氏が故郷ツィラータールのフューゲン(現在のオーストリア・チロル地方)にこの曲を持ち帰り、チロル地方のファミリー合唱団がレパートリーに加えて演奏旅行をしたことによってヨーロッパ各地に広まり、長い年月の中で世界各地へと広がっていきました。
きよしこの夜の生誕地、オーベルンドルフとは
オーベルンドルフは、音楽祭やモーツァルト生誕地として有名なオーストリア北西部の街ザルツブルクから北に約20kmの郊外にある村です。オーベルンドルフの横を流れるザルツァッハ川を南にくだると鉱脈と岩塩鉱床という豊富な資源を持つザルツブルクに至るため、オーベルンドルフと川を挟んだ対岸にあるラウフェンはザルツブルクにとって重要な輸送拠点として、中世から18世紀末まで水運業で栄えていました。
しかし、19世紀初頭のナポレオン戦争後のミュンヘン条約によって、ザルツァッハ川に国境がひかれ、川向こうのラウフェンはバイエルン王国(現在のドイツ)領となり、約1400年間の歴史を歩んできたラウフェンと分断されてしましました。現在も、ザルツァッハ川にひかれた国境線は残り、川向こうのラウフェン村はドイツに属していますが、1995年にオーストリアがEUに加盟したことにより、かつてのように自由に行き来することが出来るようになりました。
オーベルンドルフへのアクセスは?
オーベルンドルフは、ザルツブルクから北西15㎞ほどの場所にあります。車移動の場合、約20~25分ほどとなります。電車で移動する場合は、ザルツブルク駅(Salzburg)からローカル線S1・Lamprechtshausen Bahnhof行きの電車で約25分、『Oberndorf b.Salzburg Bahnhof』で下車します。
目的とするオーベルンドルフ村最寄り駅に到着する前の二駅「Oberndorf b.Salzburg Oichtensiedlung 駅」と「Oberndorf b.Salzburg- Laufen 駅」の駅名にも“Oberndorf b.Salzburg”がついているので、間違えて降りないよう注意が必要です。
オーベルンドルフのお勧め観光
きよしこの夜礼拝堂
オーベルンドルフ駅から約1km(徒歩15分ほど)の緩やかな丘に、きよしこの夜礼拝堂が建っています。きよしこの夜礼拝堂が建っている場所には、もともと聖ニコラス教会がありました。オーベルンドルフにある聖ニコラス教会の歴史は、12世紀にはじまり、長い歴史の中で洪水や火災により何度か修復、建て直しをしてきました。きよしこの夜が誕生した当時の聖ニコラス教会は1798年に建造されたものでした。その教会も18世紀に起こった2度の洪水被害により大きな損傷を受け、19世紀初頭に聖ニコラス教会は取り壊されてしまいました。
時は流れ、かつて聖ニコラス教会が建っていた場所に、現在見られる六角形をした小さく可愛らしい「きよしこの夜礼拝堂」が1937年に建設されました。
きよしこの夜ミュージアム
礼拝堂そばの博物館では、「きよしこの夜」の歌詞、誕生ストーリーや歴史、オーベルンドルフの人々の暮らしや水運業についての展示を見ることができます。
きよしこの夜礼拝堂のクリスマスミサ
オーベルンドルフでは毎年12月24日の17時から約45分間、クリスマスミサが行われ、世界中から3000~4000人の信徒や観光客が訪れます。内部は木彫りの祭壇、わずか2列の椅子が並べられた小さな礼拝堂のため、クリスマスミサは礼拝堂の外で行われます。ミサの準備で16時頃から礼拝堂内部に入れなくなるので、内部を見学したい場合は早めに到着することをお勧めします。内部見学のための行列やミサのための場所取りに時間を要するのを覚悟の上、屋外にいる時間が長いので防寒対策をしっかりして行きましょう。礼拝堂付近では、小さなクリスマスマーケットが開かれるので、屋台のホットワインで体を温めるのも良いでしょう。
クリスマスイヴの日没は16:20。17時少し前に砲声と近隣教会の鐘の音が鳴り響きます。そして17時になるとミサが始まります。歓迎の挨拶や祝福、演奏、いくつかの聖歌の後に「きよしこの夜」が生誕時と同じようにギターの伴奏によって歌われ、感動的な締めくくりでミサが終わります。
200年以上前にこの場所で生まれた希望の歌は、現在も色褪せることなく、世界中の人々の胸に響き続けています。