ペルセポリスとは
「昔、エジプトとパキスタンは同じ国の版図だった」と聞くと信じられない方も多いのではないでしょうか。「史上初の世界帝国」と言われるアケメネス朝ペルシャは、紀元前6世紀から紀元前4世紀にかけて、西は現代のエジプトやトルコ、東はパキスタンやキルギス、タジキスタンのあたりに至る広大な領域を支配しました。そしてペルセポリスは、スーサやバビロンと並び、ペルシャ帝国の主要な都の一つでした。
ペルセポリスは、帝国の最盛期の王ダレイオス1世の命により、王の即位式や新年を祝う儀礼を開く都とするために、60年もの歳月をかけて建設されたと言われています。しかし、紀元前330年、大軍を率いて攻めてきたマケドニアのアレクサンドロス大王により破壊され、廃墟となってしまいました。
立ち並ぶ石柱や宮殿跡、精緻に描かれた美しいレリーフなどが帝国の栄華を今日に伝えており、エジプトのピラミッドやヨルダンのペトラと並ぶ、中東を代表する遺跡です。都としての繁栄はアレクサンドロス大王によって終焉を迎えましたが、その文明の精髄が込められたペルセポリスは、破壊されてもなお魅力を失うには至りませんでした。1978年には、世界で最初の世界遺産の一つとして世界文化遺産に登録されています。
ペルセポリスへの行き方、アクセス
ペルセポリスは、遺跡から程近く、人気スポットが多いシラーズと組み合わせた行程での観光がおすすめです。
現在、イランへの日本発の直行便はなく、エミレーツ航空(ドバイ乗継ぎ)やカタール航空(ドーハ乗り継ぎ)などの中東系航空会社を利用してテヘランに向かうのが便利です。飛行機の搭乗時間は、例えばエミレーツ航空利用・東京発の場合、羽田〜ドバイが約11時間、ドバイ〜テヘランが約2時間です。
テヘランからシラーズは国内線で所要約1時間40分。シラーズからペルセポリスはバスやタクシーで所要約1時間です。
ペルセポリスの見どころ4選
クセルクセス門
入り口に入り、大階段を登り切ったところで旅人を迎えてくれるのが、ペルセポリスの正門・クセルクセス門の巨大な牡牛像。力強い生命力を感じさせる獣身のレリーフは、ペルセポリスに最初に邂逅する場にふさわしい迫力です。門を抜けて振り返ると、クセルクセス門の東側、人面有翼獣身(牡牛)像を見ることができます人間の顔が獣の身体についている独特の形態は「ラマッス」と呼ばれ、アケメネス朝に先立つ古代アッシリアでも守護獣として遺跡を守っていたもので、文明間の影響関係を示しています。
双頭鷲像
クセルクセス門の先の通路を進んだ奥で見られるのが、特徴的なデザインの双頭鷲像。「ホマ」と呼ばれるイランの神話上の鳥を象っていると言われ、イラン航空のシンボルマークにも採用されています。飛んでいるホマの影に触れると恩恵があると言われる、幸福の象徴でもあります。
アパダーナ(謁見の間)
クセルクセス門を通って南側に、ひときわ高い柱が並んでいる場所が、アパダーナ(謁見の間)と呼ばれた宮殿の跡。ここは、かつて、広大なペルシャ帝国の各地からやってきた使節団が、貢物を持って王と謁見する場所でした。破壊を経て残されたのは土台と柱のみですが、当時は土台が一辺が60メートルの正方形、高さが12メートルの立派な建築だったと言われています。様々な献上品を持った使節で賑わう壮麗な宮殿を、土台から想像してみるのも楽しいかもしれません。
見事なレリーフの数々
アパダーナの東側にある階段の大きなレリーフをはじめ、ペルセポリス内には見事なレリーフが多数残されています。
ペルセポリスのレリーフでも、最も有名で見応えがあるのが、アパダーナの東側にある階段のレリーフ。西はリビアから東はインドまで、広大な版図の元にあった多様な民族の人びとが、それぞれの特産品を持って並んでいる様子を見ることができます。レリーフには23もの属国の使節団が描かれ、それぞれ服装や髪型が巧みに描き分けられており、その違いを詳しく見比べてみるのもおすすめです。
牡牛に噛み付くライオンをモチーフにしたレリーフは、遺跡内に復数点在しており、いずれも躍動感に溢れ、見応えがあります。同じモチーフを反復して用いていることから、ペルセポリス建造にあたり重要なモチーフだったことが推察できます。この図が何を意味しているかには諸説があり、ライオンが夏、牡牛が冬を象徴して季節の巡りを意味するという説や、ライオンが王、牡牛が敵を象徴して帝国の強大さを意味しているという説が有力だと言われています。
ペルセポリス近郊のおすすめスポット4選
ナクシェ・ロスタム
ペルセポリスの北、車で約10分の場所にあるナクシェ・ロスタムは、アケメネス朝の歴代の王、クセルクセス1世、ダレイオス1世、アルタクセルクセス1世、ダレイオス2世の墓所。
ここには、アケメネス朝に次ぐペルシャ人による強大な帝国となった、ササン朝ペルシャの歴史を描いたレリーフも残されています。王シャープール1世が、捕虜とした東ローマ皇帝ヴァレリアヌスを跪かせている「騎馬戦勝図」と、ササン朝の王が女神から王権を賜る様子を描いた「騎馬叙任式図」は傑作で、ペルセポリスとあわせてぜひ訪れたい場所です。
パサルガダエ
ペルセポリスの北東、車で約1時間の場所にあるパサルガダエは、アケメネス朝ペルシャの主要都市の一つで、最初の首都とされた場所。アケメネス朝の初代王であるキュロス2世の墓があります。キュロス2世はバビロン捕囚で捕らえられていたユダヤ人を開放した名君として有名で、旧約聖書でも「開放者」として讃えられている他、この地にとって侵略者側であったアレクサンドロス大王も、敬意を示すためにこの墓を訪れたと言われています。2011年に世界文化遺産に登録されました。
エラムガーデン(シラーズ)
ペルセポリスから南西に車で約1時間の場所に、古来より文学と芸術の都として栄えたシラーズがあります。そして、芸術の都シラーズを象徴するにふさわしい、一際華やかな場所がエラムガーデンです。その名はペルシャ語で「楽園庭園」を意味し、ガージャール朝建築の傑作と言われるエラム宮殿に、四季折々の花が彩る庭園が向かい合っています。季節折々で異なる魅力がありますが、なかでもバラがシーズンを迎える5,6月が特におすすめ。2011年に、カシャーンのフィーン庭園などのイラン各地の庭園と共に、「ペルシャ式庭園」として世界文化遺産に登録されました。
ナシル・アル・モルク・モスク(シラーズ)
エラムガーデンの建造と同じ時代、カージャール朝時代の建築家ナシル・アル・モルクによるモスクで、別名「ローズモスク」と呼ばれています。なぜそう呼ばれるのかは、ひと目見ればわかります。モスクのタイルに、バラの花のモチーフが使われているのです。イスラム教のモスクの色は通常青や緑、黄色等が多いのですが、鮮やかなピンク色が用いられたこのモスクは異例の存在です。そして、このモスクを美しく彩るのはタイルだけではありません。西の礼拝堂を午前中に訪れると、美しく装飾されたステンドグラスから陽光が差し、堂内を色鮮やかに彩るのです。
宗教の慣例に反する異例の装飾から、完成当初は礼拝に来る人がいなかったそうですが、今ではシラーズの人びとに親しまれる場所となっています。